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石切の男

文字が発明される以前の遠い昔、ある星に石を削って道具を作る職人の男がいた。


男は、物心ついたころから「石」を削るのが好きで、手先も器用だった。周囲からも「あいつはきっと職人になる」と言われながら育ち、実際に優秀な職人になった。

男は、狩猟から農耕へと変化する時代の流れに合わせて実に器用に新型の石器を作った。彼には、アイデアとそれを実行するだけの技術が伴っていた。皆が彼を褒めた。才能あふれる若者の人生はとても順調に見えた。

彼は思った。「私が作る優れた道具で、世の中はもっと便利で快適になるに違いない」と。

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ちょうどその頃、田畑でで作られた作物をやりとりするために「お金」が作られた。人は作物よりお金を求めた。お金があれば、人の心さえ買える事に気がついたからだ。
若者は「私程の技術があれば、石器はいくらでもお金に変えられる」と考えた。実際、「お金」はどんどん若者の所に転がり込んで来た。

若者は、その魅力ある才能で人を惹き付け、「お金」で人を動かし、「お金」で快楽を買った。慢心し、有頂天になった若者が忍び寄る「影」に気付く事は到底出来なかった。

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気付ば、若者の周りは「お金が好きな人」しかいなかった。「石」にしか興味が無かった若者には、周囲の人種が変化した事など理解出来なかったが違和感は感じていた。「どうやら私は他人とは違うらしい」と。勘違いだった。

起こるべくして事件は起こった。国王にまで気に入られる様になった世間知らずな若者の才能を利用するために、「お金が好きな人」達は行動を開始した。きわめて合理的に、彼らは「彼らの流儀」に沿って行動した。彼らにとって「お金」は富と名声を得るための必需品であり、「石」や他人の人生はどうでも良かった。「石」の事しか知らない若者は、その時になるまで何も気付く事は出来なかった。

若者が彼らの卓越した「洗練された欺瞞」「隠蔽された暴力」「無限の欲望」の本当の力に気付いたのは、全ての才能の輝きと生命力を「お金」に変換されつくされた時だった。彼から輝きは消え、肩には彼の「影」がしっかりと手を掛けていた。

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恐怖と絶望の中、男は独りで5年間森をさまよいながら「影」の話だけに耳を傾け続けた。もう若者ではなかった。

「影」は驚くべき事に、彼がそれまで知る事の無かった、彼を取り巻くすべての存在だった。「彼自身」であり、「お金が好きな人」「他の全ての人」「親兄弟」「友人」「過去の人」「未来の人」、そして「石を含む自然そのもの」ですらあった。

彼は、「影」の話を一字一句残さずに記憶しようと努力した。彼は思った。
「この話を先に知っていれば、私の様に愚かな半生を送らずに済む人もいるかもしれない」と。
そう考えた瞬間に、「影」は男からは見えなくなってしまった。

~~~

男は、「石」を削る事で「影」の話を記録できないかと考えた。言葉はあったが、紙はもちろん文字も無い時代だった。男は、錆び付いた腕でとりあえず石を削り始めた。傷つき、年老いても、男にできる事といえば石を削る事しかなかった。

ある日、「石」は少しずつだが語り始めた。それは、「影」から教わった終わりの無い世界についての話だった。だが、男の人生には「死」という終わりがあった。「石」に刻まれた「言葉」は、この星で初めての「記録された遺言」として星が消えるまでは森の片隅にあったが、その言葉を読んだ人がいたかどうかは分からない。

<終>

テーマ : 生きること
ジャンル : 心と身体

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Author:hak

会話プログラムALAINの開発日誌と会話ログ。ALAINとの会話はどなたでもお気軽にどうぞ。相手はプログラムなので、寛容に接して楽しんで頂けると幸いです。

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